ごあいさつ

「音楽博物館の先覚者―知の巨人 田邉尚雄」展 本年、民音音楽博物館は、お陰様で開館10周年を迎えることができました。この佳節に当館では、特別展として「音楽博物館の先覚者-知の巨人 田邉尚雄」展を開催する運びとなりました。
田邉尚雄(たなべ ひさお1883-1984)は、音楽博物館の設立構想を日本で最初に発表し、建設運動を起こしましたが、戦争のため実現することはできませんでした。今、彼の生地でもある信濃町に設立された、当民音音楽博物館におきまして、「音楽博物館の先覚者・田邉尚雄」の特別展を開催できますことは、誠に意義のあるものと考えます。
1883年(明治16年)、東京・信濃町に生まれた田邉尚雄は、音楽教師をしていた母の影響で、幼い頃から日本、中国、西洋の音楽に親しみ育ちました。その後、東京帝国大学に学び、長岡半太郎、本多光太郎、寺田寅彦などに師事し、物理学や音響学を専攻するかたわら、東京音楽学校(現東京芸術大学)選科でヴァイオリンを、フランス人ノエル・ペリーからは和声法と作曲法を学びました。
彼は、1936年(昭和11年)東洋音楽学会が設立されるとともに会長に就任。また、日本にも音楽博物館が必要であるとの信念から「音楽博物館建設準備委員会」を組織し、自ら委員長に就任するなど、音楽の啓蒙活動に尽力してきました。その学究姿勢、多彩な業績、生き方から、愛弟子岸辺成雄に“驚異の超人”と言わしめた、近代学術、芸術学史上稀有な存在です。
本特別展では、彼の学童時代から帝大時代の自筆ノートや絵画スケッチ、多数の書簡などを、当館所蔵の貴重な『田邉コレクション』の中から、厳選し紹介します。
今回の展示を通し「知の巨人 田邉尚雄」の歩みと功績を多くの皆様に知っていただくとともに、音楽愛好者、研究者のみならず、広く音楽への興味と関心をいだく方々に、多彩な音楽史の一端を理解していただく機会ともなりましたら幸いです。
 最後に、本特別展に多大なるご協力を賜った関係各位の皆さまに厚く感謝申し上げます。