ごあいさつ

 このたび開催の運びとなりました、「民衆の讃歌―大道芸とパフォーミング・アーツ」は、「庶民に根ざした音楽運動の展開」との民音創立の精神に鑑み、庶民の生活のなかから生まれ、育てられてきた芸能である、大道芸に焦点をあてました。

 まさに、大道芸は、人々の喜び、悲しみといった、人間の心の表現が歌となり、踊りとなり、普遍的な芸術文化となって今日に残り、それはそのまま、日本文化の源流となりました。従って、「大道芸を語らずして、日本の庶民文化は語れない」といっても過言ではないでしょう。

 「万葉集」には「ほかいびと」と呼ばれた人々のうたが残されています。大漁や豊作を祈った歌です。人間の内面から発する魂の叫び―これが大道芸人の始まりではないかと言われています。

 奈良時代には、中国や朝鮮半島から「散楽」と呼ばれる芸能が伝えられ、それが平安時代には「猿楽」となり、さらに今日知られる「能」と「狂言」へと発展していきます。大道での雫の一滴がやがて大河のうねりとなるようにあらゆる芸術、パフォーミング・アーツへと開花していったのです。

 今回の特別展では、これらの大道芸が歌舞伎や能楽といった洗練された舞台芸術に発展・定着した歴史的推移を古い文献や錦絵、実物資料を通しご覧いただく大道芸の庶民芸能史展です。

 最後に、快く資料を提供して下さった東京都立中央図書館特別文庫、東京大学明治新聞雑誌文庫、民族芸能文化連盟、太鼓館、菊乃家〆丸の方々、またさまざまにご教授下さった倉田喜弘、中坪功雄、上島敏昭の各氏に心から御礼申し上げます。
    
                                            民音音楽博物館

本展示は、2005年7月10日をもちまして終了いたしました。 ありがとうございました。




門付芸

 芸人が家々を訪問し、門口に立って演じる芸能のことです。もとは、季節の折り目に神が門口ごとに訪れ、祝福をしていくという民俗信仰に由来しています。門付芸人の歴史は古く、宮廷に仕えた「祝言人(ほかいびと)」が発端であるとも言われています。 万葉集(巻十六)にも、詠み人として選ばれています。



音楽・演劇関連の大道芸

 大道で演じられた芸能には、三味線、尺八、太鼓、ささらなど、日本の楽器とともに胡弓、月琴、明笛など中国伝来の楽器が用いられ、唄や踊り、技芸に華やかさをそえました。とくに近代以降、唄(歌)や楽器演奏をもち芸として、聴かせる大道芸人(歌手、演奏家)が輩出し、今日では外国人の街頭演奏を耳にすることも稀ではありません。
大道芸

 大道・街頭など野外で演じられる芸能の総称で、町辻でのパフォーミング・アーツであることから辻芸(つじげい)とも呼ばれています。今日の劇場や寄席で行われる多くの芸能も、初めは、屋根のない街頭や広場で演じられた大道芸でした。ものを売るための芸、見せるための芸、いずれも際立った芸で道行く人々を楽しませた大道芸人たち。彼らこそ、街道を行く庶民文化の伝播者たちでした。


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