Toshiharu Matsuo 専任調律師 松尾敏晴 Episode 4 音を学ぶ 「調律師として、歴史をこれから継ぐ人へ」 Toshiharu Matsuo 専任調律師 松尾敏晴 Episode 4 音を学ぶ 「調律師として、歴史をこれから継ぐ人へ」

調律師だからこそ、ピアノから読み取れる。作曲家の意志、家族のストーリー 調律師だからこそ、ピアノから読み取れる。作曲家の意志、家族のストーリー

松尾さんは調律の知識や技術を持ち、古典ピアノに触れています。「古い調律の跡を見ると、作曲家の歴史や意思が見えるんですよ」と松尾さんは言います。実は、当時のヨーロッパでは作曲家が調律を指示していました。調律師だからこそ、モーツァルトやベートーヴェンの想いを調律の跡から読み取ることができる醍醐味があります。また、松尾さんは調律師として、古典ピアノだけでなく、一般家庭にある現代ピアノの調律もしています。古典ピアノと同じく、家庭のピアノにも一台一台ストーリーがあります。

「ピアノから、家族のストーリーが見えます。例えば、おばあちゃんのピアノを譲り受け、写真を見せてもらいながら当時の話を聞いたりします。そしてピアノを見ると、おばあちゃんがどんな風にピアノに接してきたか、家族の中でどんな存在だったか、ピアノが語ってくれます。たとえ同じ製造メーカーや製造年代でも、使用状況によって違うピアノになりますし、いろいろなピアノに触れるのはとても楽しいですね」

楽器としての力がある古典ピアノ。楽器の力を借り、音楽談義ができることも醍醐味。 楽器としての力がある古典ピアノ。楽器の力を借り、音楽談義ができることも醍醐味。

古典ピアノは楽器としての力があり、その恩恵で味わえる醍醐味もあります。展示や演奏会で古典ピアノを他のホールに持っていく際には、松尾さんも調律師として同行します。すると、「モーツァルトやベートーヴェンの時代のピアノ」と聞いて、音楽の知識が豊富な館長など、現地のスタッフが興味を持ってピアノを見に来るとのこと。
「音楽ホールの館長はやはり経験が豊富ですから、コンサートのエピソードなど、ホールにまつわる話を聞くのは本当に楽しいです。こちらの古典ピアノについての話も興味を持って聞いてもらえますし、音楽の経験も知識も豊富な方と音楽談義をできるのは、楽器の持つ力が大きいと思いますよ」

「耳」だけが重要な力ではない。未来へ引き継ぐために、広い知識が必要。 「耳」だけが重要な力ではない。未来へ引き継ぐために、広い知識が必要。

様々な魅力がある調律師の仕事ですが、調律師に必要な力とは何でしょうか?「調律」と聞くと、音を聞き分ける耳の力が重要なのではないかと思いますが、必ずしもそれだけではありません。松尾さん自身が調律師の道を進むことを意識しつつ、工学部に進学したように、「モノがどのようにできているか」機械として理解する力も重要です。また、古いピアノを調律するには、音楽の歴史を知ることも必要になってきます。
「専門ではありませんが、工学部で学んだ化学や流体力学の知識も役立っていると感じます。古典ピアノは文化財としての価値もあるので、考古学のひとつとして歴史を学んでいることも重要ですね。この仕事は、未来へ引き継ぐ仕事。音だけではない広い知識が必要なので、いろいろなことに興味を持って学ぶと良いと思います」

モーツァルトの時代の音を未来へ。未来の人に誇れる仕事を。 モーツァルトの時代の音を未来へ。未来の人に誇れる仕事を。

古典ピアノは文化財としての価値もあるからこそ、現在、松尾さんが調律している「仕事の跡」は、後世に引き継がれることとなります。未来の人に、いかに良い状態で引き継いでいくか、それは松尾さんの仕事にかかっているのです。「いま、良い状態で音を聞いてもらうために調律することはもちろんですが、未来の人が私の仕事を見たときのためにも、責任を持って仕事をしています。未来の人にも、モーツァルトやベートーヴェンの時代の音を聞いてもらえるように調律すること。それが私の仕事です」

調律師のしごと こぼれ話 調律師のしごと こぼれ話
Q:「コレは困った!」と慌てた仕事は?
古典ピアノのコンサートをホールで開くことがあります。古典ピアノはとても繊細で、すぐに調律が狂うので、ピアノに付きっきりで弾く曲目に合わせて調律します。あらかじめ曲目に合わせた調律法をイメージしながら、コンサートに臨むのですが、急にアンコールで「好きな曲を弾きたい」と言われると焦りますね。「そんな急に言われても…」と困ってしまいます(笑)
Q:どんな音楽を聴きますか?
    やっぱりピアノの曲を
    聞くんでしょうか?
ピアノは聴かないですね。どうしても音が気になっちゃって。映画を見に行っても、ピアノを弾くシーンがあると音をチェックしちゃってストーリーを追えなくなることもあります。職業病ですね(笑)弦楽器や管楽器はよく聴きます。