Toshiharu Matsuo 専任調律師 松尾敏晴 Episode 3 音を楽しむ 「民音音楽博物館ならではの、古典ピアノの楽しみ方」 Toshiharu Matsuo 専任調律師 松尾敏晴 Episode 3 音を楽しむ 「民音音楽博物館ならではの、古典ピアノの楽しみ方」

現代ピアノと異なる低い基音(ピッチ)は、モーツァルトやベートーヴェンの時代の音。 現代ピアノと異なる低い基音(ピッチ)は、モーツァルトやベートーヴェンの時代の音。

古典ピアノは、現代ピアノと比べると、奏でる音に異なる特徴があります。古典ピアノは基音(ピッチ)が低く、現代ピアノに比べて音が響きません。
「現代ピアノに慣れた人にとっては『音が出ないピアノ』と感じるかもしれません。プロの演奏家ほど違和感を感じるようで、『もっとピッチを上げてください』と言われることもあります。古典ピアノは、音が出ないというよりは、現代ピアノより厚い響板が使われているので、音が外に響かないようになっています。どうして当時はこの音だったのか、その理由に思いを馳せてみてください。」

モーツァルトやベートーヴェンが古典ピアノを使って曲を作っていた時代は、現代のようにクルマの走る音やクラクション、電子音などの騒音が少ない時代でした。音があるとしたら、鳥の鳴き声や、木々が風に揺れる音。現代より音が少ないので、大きい音を響かせる必要がなかったのでしょう。
また、そんな静かな環境で暮らしている当時の人々は、現代よりもずっと耳が良かったはず。
この低い基音のピアノだからこそ、モーツァルトやベートーヴェンは名曲を作り、豊かに表現することができたのです。

ピアノは芸術品の一面も。当時の文化を色濃く残す装飾にも注目。 ピアノは芸術品の一面も。当時の文化を色濃く残す装飾にも注目。

美しくピアノを彩る装飾も、当時の文化や暮らしを色濃く残し、とても興味深いものです。16世紀に作られた「ピサ・チェンバロ」は、外面は繊細な彫刻が施され、内面は当時の様子が色鮮やかに描かれています。1793年の「シュトローム」には花鳥風月が描かれ、1800年の「ヨハン・フリッツ」には唐草模様が施されていることから、当時のヨーロッパでは東洋の文化が流行していたことがうかがえます。ピアノの仕組みが特徴的なのが、1795年に作られた「アントン・ワルター」。タッチが軽快で明るい音が出ることから評価の高いピアノですが、ペダルは足で踏むのではなく、膝で押し上げる位置にあります。また、鍵盤の黒鍵と白鍵の色が逆になっています。

歴史を知らないと、調律はできない。先人の調律の軌跡を読み解く。 歴史を知らないと、調律はできない。先人の調律の軌跡を読み解く。

さらにピアノをよく見ると、響板の割れた跡や、ピンを調律した跡も確認することができます。ヨーロッパから日本にやってきて、ひとつひとつ大切に松尾さんが調律してきた仕事の軌跡でもありますが、製作された当時からヨーロッパの調律師が仕事をしてきた軌跡でもあります。
「先人の調律師の仕事を見て『なぜこの調律をしたのだろう』と疑問に感じることもあります。その疑問は、当時の歴史を学び、背景を知ることによって、仕事の目的や狙いがわかり、疑問が解けます。目的や狙いを理解することで、私もその歴史を継ぐための調律をすることができます。歴史を知らないと、調律はできないのです。」

民音音楽博物館では古典ピアノの解説と演奏を毎日実施。モーツァルトの時代へ思いを馳せながら、音楽を楽しむ。 民音音楽博物館では古典ピアノの解説と演奏を毎日実施。モーツァルトの時代へ思いを馳せながら、音楽を楽しむ。

1990年代以降、「オリジナル志向」が唱えられ、できる限り製作された当時の音で演奏しようとの機運が高まりました。民音にある古典ピアノが奏でるのは、まさに当時のオリジナルの音です。
民音音楽博物館では、平日は5回、日・祝日は7回、古典ピアノの解説と演奏を行っています。同じ曲でも、現代ピアノで演奏される音と、古典ピアノで演奏される音は違います。音の違いを感じ、さらに装飾を目で見ることで、想像力が大きく膨らんでいき、当時のヨーロッパにタイムスリップしていきます。偉大な作曲家の仕事風景、演奏会で音楽を楽しむ人々、暮らしや文化など、様々なことに思いを馳せながら、古典ピアノが奏でる音楽を楽しんでください。