Toshiharu Matsuo 専任調律師 松尾敏晴 Episode 2 音を引き継ぐ 「技術を、ピアノを、音を引き継いでいくこと」 Toshiharu Matsuo 専任調律師 松尾敏晴 Episode 2 音を引き継ぐ 「技術を、ピアノを、音を引き継いでいくこと」

調律師の家に生まれ、調律師への道を意識していたのに、進学先は工学部機械科。その理由は? 調律師の家に生まれ、調律師への道を意識していたのに、進学先は工学部機械科。その理由は?

松尾さんは新潟県で生まれました。両親ともに調律師の家に生を受け、「家で仕事をする姿を見てきましたし、中学からは親と一緒に現場に行って手伝っていました。一人っ子でもあり、漠然とこの仕事を継ぐのかな、と思っていました。」

小さな頃からバイオリンを習い、高校からチェロに転じて、オーケストラに参加するなどして音楽に親しんできた松尾さん。調律師を目指し、音楽大学の調律科や専門学校で学んだのかと思いきや、進学先はなんと工学部の機械科でした。

機械と調律師は関係なさそうに見えますが、実は調律師を意識したからこそ、選んだ進学先。「もともと文系科目のほうが得意だったんですけど、調律には機械の知識が必要だとわかっていたので、工学部に進みました。
古典ピアノの調律を手がけるようになって、工具がない、部品がない時に自分で作ることができるのは、このときに学んだことが活かされています。」

東ドイツのライプツィヒに留学。調律を本格的に学び、使命を感じる。 東ドイツのライプツィヒに留学。調律を本格的に学び、使命を感じる。

卒業後は機械メーカーに就職した後、東ドイツ(当時)のライプツィヒにあるピアノメーカー「ブリュートナー(Blüthner)」に留学し、調律を本格的に学び始めます。ライプツィヒには古典ピアノが多く現存していたので、この留学時に博物館などで古典ピアノに触れる機会がありました。

親が調律師で、ピアノが分解され、組み立てられていく様子を物心ついた時から見てきた松尾さんは、日本は代々続いてきた仕事が途絶えてしまうことが多くなってきた時代に、ヨーロッパでは親から子どもへと引き継がれていく文化が残っているのを見て、使命を感じました。「モノのない戦後でも工夫して工具や塗料を作り、ピアノを調律し修復してきた両親の仕事のやり方は、学校では教えられないこと。それを近くで見てきたからこそ、自然と身についている自分が、しっかり引き継がなくてはならないと思いました。」

仕事が残る調律師。引き継いだ人たちに恥ずかしくない調律を。 仕事が残る調律師。引き継いだ人たちに恥ずかしくない調律を。

古典ピアノは、多くの調律師によって調律された跡が残り、調律師のピアノや音楽に対する考え方がそこから見えてきます。現代のピアノでも同じで、「わー、こんな調律したんだ!」とびっくりすることもあるとか。 仕事ぶりが後世に残ってしまう調律の仕事は、だからこそ身が引き締まる仕事。

「民音の古典ピアノは、これからもずっと引き継がれていくもの。 今だけを考えて調律をするのではなく、先のことを考えて、製作された当時の音を長く楽しめるように調律しています。将来、このピアノたちを引き継いだ人たちが見たときに、恥ずかしくない調律をしたいですね。」