Toshiharu Matsuo 専任調律師 松尾敏晴 Episode 1 音を再現する 「300年前のピアノの音を再現する仕事」 Toshiharu Matsuo 専任調律師 松尾敏晴 Episode 1 音を再現する 「300年前のピアノの音を再現する仕事」

モーツァルトやベートーヴェンの時代の古典ピアノ。弾ける「楽器」として、音を再現する仕事。 モーツァルトやベートーヴェンの時代の古典ピアノ。弾ける「楽器」として、音を再現する仕事。

古典ピアノ室に並ぶ楽器の中で最も古いものは、1580~1600年の間にイタリアで製作された「ピサ・チェンバロ」。
1793年にイタリアのローマで製作された「シュトローム」には、中国の庭園風景が描かれ、当時のヨーロッパの人々が、東洋へのあこがれを抱いていたことが感じられます。1795年にオーストリアのウィーンで製作された「アントン・ワルター」は、モーツァルトが好んで使っていたとされ、ハイドンやベートーヴェンも高く評価したと言われています。
1800年にウィーンで製作された「ヨハン・フリッツ」はベートーヴェンの愛弟子であるケグレビッチ伯爵令嬢バルバラの所持品で、ベートーヴェン自身も弾いたであろうと言われているピアノです。

これらの文化的にも貴重な古典ピアノが、民音音楽博物館では今でも響板やピン板は当時のまま、組み立て法も変わらずに残っています。
さらに、現存している古典ピアノは弾くことはできず、見て楽しむ「美術品」になっていることも多いのですが、民音の古典ピアノは弾いて音を聴くことができる「楽器」です。モーツァルトやベートーヴェンが弾いた当時の音を再現するのが、松尾さんの仕事なのです。

現代にない工具は、自分で作る。ひとつひとつのピアノに合った調律を。 現代にない工具は、自分で作る。ひとつひとつのピアノに合った調律を。

古典ピアノは、わずかな環境変化で音が狂ったり、不具合が出るので、週に2~3回の調律が必要となります。ひとつひとつが異なるピアノなので、それぞれに合った調律をしていきます。ピンや弦の交換は、当時の部品はもう残っていないので、できるだけ近いものを探して使います。
調律に使う工具は、現在の市販のものでは対応できない場合は、自分で作ってしまうことも。
「調律の仕事は、弦を調整したり音を聞いて合わせたりするイメージが強いと思いますが、実はもっと幅広いんですよ。古典ピアノの音を再現するには、弦の調整の他にもすべきことがたくさんあるのです。」

日本の高い湿度との闘い!マニュアル化できない「古典ピアノのお医者さん」。 日本の高い湿度との闘い!マニュアル化できない「古典ピアノのお医者さん」。

調律の仕事をしていく中で松尾さんが悩まされているのが、ピアノが製造されたヨーロッパと日本の気候の違い。
「もともと日本の気温や湿度の高さに耐えられるように作られたピアノではない」ため、適切な温度・湿度管理が必要になります。管理する古典ピアノ室の空調を工夫したり、板の張力が強くなって負担がかかる夏には、湿度の低い軽井沢などの避暑地にピアノを“療養”させることもあるとか!

年々夏の暑さが増したり、台風やゲリラ豪雨の影響で雨が多くなったり、気候は毎年違うもの。仕事をマニュアル化することはできず、その年、その季節、その日によって異なる調律が必要となります。松尾さんは民音での調律を30年手がけていますが、毎年新しい発見があるそうです。 古典ピアノが何を必要としているかひとつひとつ見極め、手当てを施す。古典ピアノのお医者さんのような松尾さんは、モーツァルトやベートーヴェンの時代の音を再現するために、今日も古典ピアノの声を聞き、じっくりと向き合っています。